瀬戸内海を囲む中国・四国地方は、日本のウイスキー地図では長く空白に近い地帯でした。その空白が、2010年代後半から急速に埋まりつつあります。先頭を走るのは広島の桜尾——「ジンで先に世界を獲る」という新しい勝ち筋を示した蒸溜所です。
01 瀬戸内の環境 — 温暖と海風
瀬戸内圏の熟成環境は、北海道とも九州とも違います。温暖で雨が少なく、穏やかな海風が通る——熟成は本州標準より速めに、しかし九州ほど激しくなく進むとされます。桜尾では海沿いの貯蔵庫(桜尾)と山のトンネル(戸河内)で熟成環境を使い分け、同じ原酒から性格の違う二銘柄を育てる——地形の多様性を「熟成の引き出し」に変える設計です。
02 広がる西日本の点
この地方では他にも、岡山(宮下酒造の岡山蒸溜所——地ビール由来の技術)、山口や四国各県の新規プロジェクトなど、酒どころの技術基盤を持つ蔵の参入が続いています。日本酒・焼酎・ビールの醸造文化が厚い土地柄は、発酵技術の蓄積という意味でウイスキーと相性が良い——「酒どころは、いずれウイスキーどころになる」という日本のクラフトの法則が、瀬戸内でも進行中です。
03 家での瀬戸内
桜尾のシングルモルトはまだ若く少量ですが、ジンからの入門という蒸溜所の設計をなぞるのも一興です——桜尾ジンで蒸溜技術の精度を確かめ、シングルモルト桜尾や戸河内でウイスキーの現在地を見る。牡蠣(広島!)やレモンを使った肴と合わせれば、瀬戸内の食卓ごと再現できます。アイラの牡蠣文化の、日本の内海版——そんな楽しみ方が似合う産地です。