東北のウイスキー地図は、そのまま名水の地図です。奥羽山脈と出羽三山、鳥海山——雪深い山々の伏流水が湧く場所に、蒸溜所は立地してきました。仙台の杜から、福島の老舗、山形の新星まで、水の回廊を辿ります。

01 宮城峡 — 竹鶴が水割りで即決した谷

東北の顔は、仙台郊外の宮城峡蒸溜所です。1969年、竹鶴政孝が新川(にっかわ)の水で水割りを作って飲み、その場で建設を即決したという逸話の谷——余市と対をなす「華」の蒸溜所として、スチーム加熱の穏やかな蒸溜が、りんごや洋梨のようなフルーティーな原酒を生みます。緑に包まれた赤煉瓦の構内は見学先としても人気で、カフェ式蒸溜機という産業遺産級の設備も擁する、ニッカの西の正殿です。

02 安積 — 地ウイスキーの冬を越えた老舗

福島県郡山の安積蒸溜所(笹の川酒造)は、東北のウイスキー史の生き証人です。戦後まもなく洋酒免許を取得した歴史を持ち、地ウイスキーの冬の時代も免許を絶やさず守り抜いた——2010年代のクラフトブームで本格的なモルト蒸溜を再開した「復活組」の代表格です。小規模ながら国際品評会での受賞歴もあり、「老舗の免許×クラフトの情熱」という日本のウイスキー復興の型を体現しています。

03 東北の飲み方 — 水と一緒に

東北のウイスキーの家での楽しみ方は、産地の思想に倣うのが一番です。すなわち、水と共に。宮城峡はトワイスアップで華やかさを開かせ、遊佐は少量加水で透明感を確かめる——いずれも「名水の土地の酒」なので、加水が裏切りません。チェイサーにはできれば軟水のミネラルウォーターを。雪解け水の回廊を、グラスの中で再現する夜です。