スコットランド本土の北端から、さらに海を渡った先——約70の島々からなるオークニー諸島は、スコッチの地図の最北に位置します(近年の新設を除く)。この島々の特異さは、歴史にあります。15世紀までノルウェー領だったため、地名も人名も文化も、ケルトではなく北欧(ノース)の血が濃いのです。
01 ハイランドパーク — ヘザーの甘い煙
首都カークウォールの丘に立つハイランドパーク(1798年創業)は、島の顔です。樹木の育たない島の泥炭はヘザー(ヒースの花)を多く含み、これを焚いた麦芽は「花の蜜を焦がしたような甘い燻香」をまとう——アイラの薬品的な煙とは別系統の、オークニーだけの煙です。自家製麦、シェリー樽主体、冷涼な熟成——12年・18年はバランス型の傑作として世界的な定番になっています。ヴァイキングを冠した現行体系は、島の出自の宣言です。
02 スキャパ — 無煙の隣人
同じ島に、性格が正反対の蒸溜所があります。スキャパ——軍港として歴史に名を残すスキャパ・フロー湾を見下ろす小さな蒸溜所で、こちらはノンピート主体。蜂蜜と洋梨の柔らかな酒質は、「最北の島=荒々しい」という先入観を心地よく裏切ります。希少なローモンドスチル(特殊な形状の蒸溜器)を今も使う設備マニア垂涎の一軒でもあり、ハイランドパークとの「同島対決」は、環境が同じでも家風で味が分かれることの美しい実例です。
03 家での旅
オークニーの夜を再現するなら、ハイランドパーク12年とスキャパの飲み比べを。甘い煙と、無垢の蜂蜜——同じ島の風の、二つの解釈です。肴には燻製サーモンかオートケーキ(スコットランドの麦菓子)を。最果ての島にも、これだけ豊かな二択がある——スコッチの奥行きは、地図の端でこそ深く感じられます。